弘道館記述義: 現代語訳版・解説つき

幕末を動かした「水戸学」とは何だったのか。
尊王攘夷、忠孝無二、文武不岐――。
藤田東湖が「神州之道」に託した、日本の国家と人間のあり方を読む。
藤田東湖『弘道館記述義』は、後期水戸学を代表する思想書の一つである。
水戸藩主・徳川斉昭のもとに設立された藩校「弘道館」。その建学精神を記した『弘道館記』の意味を詳しく説き明かすため、東湖が著したのが本書であった。
しかし、その内容は一藩校の教育理念の説明にとどまらない。
東湖は神代から古代、中世を経て徳川の世へと日本史をたどりながら、「道」がいかに受け継がれ、また衰えてきたのかを論じる。その思想の根底には、父・藤田幽谷以来の朱子学的な正名論があり、そこへ国学によって掘り起こされた日本古来の神話、皇統、神祇の世界が結びつけられている。
儒学によって道義を明らかにし、国学によって日本の根源へ遡る――。
その二つを「神州之道」として結び直したところに、藤田東湖と後期水戸学の大きな特色がある。
また本書では、「尊王攘夷」「忠孝無二」「文武不岐」「学問と事業」「敬神崇儒」「治教」といった、後の幕末思想を考えるうえで欠かすことのできない問題が次々と論じられる。
東湖にとって学問とは、知識を蓄えるためだけのものではなかった。書を読んで道義を明らかにし、武によって心胆を鍛え、学んだ道を自らの身で実践する。政治と教育、学問と行動を一つのものとして捉える姿勢こそ、弘道館の教育理念であり、東湖思想を貫く精神でもあった。
本書では、『弘道館記述義』上下二巻・全三十七段を、原文の論理と思想語をできる限り保ちながら、現代の読者にも通読しやすい日本語で全文現代語訳した。
さらに巻頭には約一万八千字の詳細な解説を収録。
「藤田東湖の生涯」では、父・藤田幽谷のもとでの成長から徳川斉昭の藩政改革、弘道館建設、失脚と蟄居、黒船来航後の復帰、安政の大地震による最期までをたどる。
「藤田東湖の思想」では、水戸学と朱子学、国学との関係を軸に、『回天詩史』『和文天祥正気歌』『常陸帯』などにも視野を広げ、東湖が「大義」「正気」「神州之道」をいかに捉えたのかを考察する。
そして「『弘道館記述義』について」では、本書の成立事情、弘道館との関係、刊行と流布、幕末思想への影響を解説した。
幕末の志士たちは、なぜ「大義」という言葉にこれほどまでの重さを感じたのか。
なぜ思想のために、自らの身を投じることができたのか。
その精神世界を理解するために、藤田東湖と水戸学は避けて通ることができない。
幕末を思想から読み解くための一冊。
【構成】
概説
第一部 藤田東湖の生涯
――水戸藩の改革者から幕末の思想家へ
第二部 藤田東湖の思想
――朱子学・国学・歴史を結んだ「神州之道」
第三部 『弘道館記述義』について
――弘道館の建学精神と幕末水戸学の集成
凡例
『弘道館記述義』現代語訳
巻之上 全十六段
巻之下 全二十一段
主要参考文献
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