列子: 現代語訳版・解説つき (蜜蜂文庫)

列御寇 (著), 蜜蜂書房編集部 (編集) 

力まず、世界とともに生きる。

「杞憂」「愚公移山」「朝三暮四」「多岐亡羊」「高山流水」「余音繞梁」――今なお日本語の中に生きる故事成語と、名高い寓話の数々を収めた道家思想の古典『列子』。


天が崩れ、大地が壊れることを恐れて寝食もできなくなった杞の人。家の前を塞ぐ二つの大山を、子孫の代までかけて移そうとする愚公。猿に与える木の実を「朝に三つ、夕方に四つ」から「朝に四つ、夕方に三つ」へ変え、同じ数のまま猿を喜ばせた狙公。分かれ道へ逃げた羊を大勢で追いながら、道が枝分かれしすぎたため見失った人々。琴を弾く伯牙の心を、音を聴いただけで理解した鍾子期。歌い終えた後も、その声が梁の周囲に三日間残ったという韓娥――。

『列子』には、短く鮮やかな物語が数多く収められている。その多くは、後世に故事成語となり、二千年以上を経た現在も、人間の不安や思い込み、努力、執着を語る言葉として使われ続けてきた。

物語の中では、列子が風に乗って天地の間を飛び、泳ぎの達人が激流へ身を任せ、蝉捕りの老人が一枚の羽だけに心を集中する。夢の中で君主となる召使いがいる一方、現実には富者でありながら夢の中で召使いとして苦しむ男もいる。生と死、夢と現実、努力と運命、名誉と生命。それらの境界を揺さぶりながら、『列子』は、思いどおりにならない世界をどのように生きるかを問いかける。

世界のすべてを自分の力で支配しようとすれば、心は疲れ果てる。物の性質を知り、時の流れを見きわめ、余分な力を静めた時、人はかえって自在に動けるようになる。何も行わないことではなく、無理な作為を加えないこと。運命に屈することではなく、自分の力が及ぶところを知ること。『列子』が説く無為と虚静の思想は、先の見えない時代を生きる現代人にも、心を軽くする視点を与えてくれる。

本書は、現在伝わる『列子』全八篇を収録した現代語訳版である。巻頭には、史実と伝説の間に立つ列御寇の生涯、『列子』の思想、書物の成立と後世の受容を論じた三部構成の解説を付した。

【構成】

概説

第一部 列御寇の生涯
・鄭の野に潜む人――伝承の中の列御寇
・風に乗る人――『荘子』が刻んだ像
・史実と伝説の境界――人物から象徴へ

第二部 列子の思想
・生と化――生成し続ける世界
・虚静と技――力まずして物に応ずる
・夢と現実――心が作る世界
・力と命――行為と結果の隔たり
・楊朱篇――生命の側から名誉を測る

第三部 『列子』の成り立ちと受容
・二十篇から八篇へ――古代に存在した『列子』
・張湛の注――現行本を形作った四世紀の編集
・真偽をめぐる論争――作者を一人に定め得ない古典
・『沖虚真経』――道教経典への昇格
・物語によって思想を伝える――『列子』の意義

凡例

『列子』現代語訳
第一 天瑞篇
第二 黄帝篇
第三 周穆王篇
第四 仲尼篇
第五 湯問篇
第六 力命篇
第七 楊朱篇
第八 説符篇

主要参考文献

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